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横浜地方裁判所 平成5年(ワ)1530号 判決

横浜市旭区柏町五八番地一

原告

河野礼通

東京都中央区新富二丁目六番一号

京橋税務署内

被告

富田一男

右訴訟代理人弁護士

島村芳見

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、九五万円及びこれに対する平成三年五月一六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用被告負担

3  仮執行宣言

二  被告

主文同旨

第二事案の概要及び争点

一  事案の概要

本件は、被告が所轄の税務署職員として原告を税務調査した際に、違法な手段で調査し、また税務調査としての範囲を超えた調査をしたとして、原告が被告に対し、不法行為に基づいて慰謝料及び損害賠償を求めるものであり、その事案の概要は次のとおりである。

1  原告は、保土ヶ谷税務署長から青色申告の承認を受けて、各種設計を個人で業としていた(争いがない。)。

2  原告は、昭和六一年度から平成二年度分までの税務調査を受けたが、平成三年五月一六日に被告が原告方に臨場して税務調査をし、また反面調査(設計部長に対する電話聴取を含む。)をした(争いがない。)。

3  原告が本件で違法な調査等として主張するのは、被告の右の調査に係るものである。

二  原告の主張

1  被告は、前記原告方に臨場して調査した際、原告の住所録及び帳簿を無断で税務署に持ち帰り、それを複写した。

2  被告は、右住所録により原告の知らないうちに反面調査し、また経理に関係のない設計部長に電話をしたり、仕事に関係のない友人や原告の親類にまで証書を送付した。

そのため、原告は多大な不利益を受けた。

3  被告の右窃盗、無断複写及び個人の秘密漏洩の各行為により原告は損害を被ったので、被告に対し不法行為に基づいて慰謝料及び損害賠償を請求する。

なお、被告の行為は公務中のものではあるが、公務の執行を大きく逸脱しているので、被告個人に対しても右請求をすることができる。

三  被告の主張

1  被告は、保土ヶ谷税務署所部の国税調査官として同署長に命ぜられて原告の所得税に関する調査に従事した。被告の右調査は公権力の行使にあたるところ、その職務を行うについて故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、被告の所属する国が被害者にその損害の賠償の責めを負い、公務員個人はその賠償責任を負わない。

2  また、被告は原告主張の住所録の存在も知らないし、帳簿は原告から提示されたものを同人から預かって持ち帰ったものである。

しかも、被告のした反面調査も原告の申告所得の適否の確認に必要な範囲での質問検査権の行使であり、これも原告の同意がなければすることができないものではない。取引先の設計部長から電話聴取したが、それも原告の事業経費の確認を同人から求められてしたものである。

右のとおり、被告の税務調査には何らの違法な点はない。

四  争点

本件の争点は以下のとおりである。

1  被告が原告主張の行為について損害賠償責任を負うか。

2  被告の税務調査に原告の主張する行為があったか。もしあったとしてその行為が違法であるか否か。

第三争点に対する裁判所の判断

一1  争点1について当事者間に争いのない事実及び乙第一号証によれば次の事実が認められる。

被告は、平成元年七月から平成四年七月まで保土ヶ谷税務署に所属し、国税調査官として所得税に関する調査に従事していた。その間の平成三年四月から平成四年二月まで、同署長の命により原告の所得税について調査をした。原告が主張する被告の行為は右調査に関しての行為であり、公権力の行使に該当する行為である。

2  ところで、公権力の行使にあたる国の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合は、国がその被害者に対してその賠償の責めを負うものであって、当該公務員個人がその責めを負わないものと解すべきである。

そうであるとすると、本件について仮に被告に原告の主張する違法な調査があったとしても、被告は個人としてその損害の賠償の責めを負うことはないというべきである。

二  前項によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の本件請求は理由がないこととなる。

以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 平賀俊明)

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